講義ノート

バンデューラの社会学習理論;行動は報酬と罰だけでは決まらない

アルバート・バンデューラの社会学習理論は、人間の学習が単に行動の結果による強化や罰だけでなく、社会的な相互作用、観察、模倣を通じても起こるという考えに基づいています。この理論は、1960年代にバンデューラによって提唱され、行動主義心理学に対する重要な挑戦となりました。

社会学習理論の主要な要素

観察学習(Observational Learning):

人々は他人を観察し、その行動を模倣することで学習します。このプロセスは、特に子供たちにおいて顕著で、彼らは大人や周囲の人々の行動を観察し、それを模倣することで社会的な行動や規範を学びます。

注意(Attention):

学習者が新しい行動を学ぶためには、その行動に注意を払う必要があります。注意は、モデル(観察対象)が魅力的であったり、行動が新奇であったりする場合に高まります。

保持(Retention):

観察された行動は、後で再現できるように記憶に保持されなければなりません。これは、内的表象(mental representations)の形成を通じて行われます。

再現(Reproduction):

学習者は、観察した行動を自分自身で再現する能力を持っていなければなりません。これには、物理的な能力と記憶の正確な再現が必要です。

動機付け(Motivation):

学習者が観察した行動を実際に行うかどうかは、動機付けによって影響を受けます。報酬や罰、観察された行動の結果などが動機付けに影響を与えます。

ボボ人形実験

ボボ人形実験は、アルバート・バンデューラと彼の同僚によって1961年に行われた、社会学習理論を実証するための実験です。この実験は、子供たちが大人の行動を観察し、その行動を模倣することを示すことで、学習が観察によっても発生することを示しました。

実験の概要:

実験では、幼児をいくつかのグループに分けました。各グループの子供たちは、大人がボボ人形(底部が重く、押しても元に戻る人形)に対して異なる行動を取るのを観察しました。

  1. 攻撃的なモデル:
    一部の子供たちは、大人がボボ人形を叩いたり、蹴ったり、攻撃的な言葉を使ったりするのを観察しました。
  2. 非攻撃的なモデル:
    別のグループの子供たちは、大人がボボ人形に優しく接するのを観察しました。
  3. モデルなし:
    また別のグループの子供たちは、大人のモデルなしでボボ人形と遊びました。

実験の結果:

  • 攻撃的なモデルを観察した子供たちは、その後の自由遊びの時間に、観察した大人と同様の攻撃的な行動をボボ人形に対して示しました。
  • 非攻撃的なモデルを観察した子供たちは、攻撃的な行動をほとんど示しませんでした。
  • モデルなしのグループの子供たちは、中間的なレベルの攻撃性を示しました。

実験の意義:

ボボ人形実験は、子供たちが大人の行動を模倣する傾向があることを示し、学習が観察によっても発生することを実証しました。この実験は、テレビや映画などのメディアが子供たちの行動に与える影響についての議論を促し、親や教育者に対して、子供たちが観察する行動の種類に注意を払うことの重要性を示しました。

また、この実験は、行動主義心理学が主張する「報酬と罰だけが行動を決定する」という考えに対する重要な反論となり、心理学における認知的アプローチの発展に寄与しました。

行動主義心理学と社会学習理論

行動主義心理学は、報酬と罰(強化)が行動を決定するという考えに基づいています。この観点からは、個体が行動を繰り返すかどうかは、その行動が以前に報酬をもたらしたか、あるいは罰を避けることができたかに依存します。しかし、アルバート・バンデューラの社会学習理論は、この視点に対して重要な拡張を提供しました。

社会学習理論による行動主義心理学への反論のポイント:

観察による学習:

バンデューラは、人々(特に子供たち)が他人を観察し、その行動を模倣することによっても学習することを示しました。これは、直接的な報酬や罰を受けることなく、単に他者の行動を見ることで新しい行動パターンを学ぶことができることを意味します。

認知的プロセスの役割:

社会学習理論は、学習プロセスにおける認知的要素の重要性を強調します。観察された行動を記憶し、後でそれを再現する能力は、単なる強化を超えた認知的プロセスを含んでいます。

自己効力感(Self-Efficacy):

バンデューラは、自己効力感の概念を導入しました。これは、個人が特定の行動を成功させる能力を持っていると感じる度合いを指し、この感覚が行動の選択、努力のレベル、持続性に影響を与えると考えられています。

模倣の選択性:

すべての観察された行動が模倣されるわけではありません。個人は、模倣する行動を選択し、この選択は報酬や罰だけでなく、観察された行動の結果、モデルの地位や魅力、個人の価値観や過去の経験によって影響を受けます。

これらの点により、社会学習理論は、行動の学習と発達が複雑な認知的、社会的、感情的要素によって形成されるというより包括的な視点を提供します。これは、行動主義が提供する報酬と罰に基づく単純なメカニズムを超えて、人間の行動の理解を深めるものです。

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猿樂 昌之

猿樂 昌之

猿樂事務所(同 つむぐ人たち)の代表です。金融機関向け研修での補足情報や経営の知見を発信しております。よろしければSNSをフォローください。

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