講義ノート

VRIO分析の全貌──戦略立案と競争優位性への道筋

VRIO分析とは;Value(価値)・Rarity(希少性)・Imitability(模倣可能性)・Organization(組織化)

VRIO分析は経営戦略立案における重要な分析手法の一つです。

この「VRIO」は、Value(価値)・Rarity(希少性)・Imitability(模倣可能性)・Organization(組織化)の頭文字を取ったもので、これら4つの観点から企業リソースや能力を評価し、競争優位性を判断する分析フレームワークです。

Value
価値
自社の製品やサービスが顧客にとって価値があるか
Rarity
希少性
価値が他の企業と比較していかに希少であるか
Imitability
模倣可能性
価値を他の企業が模倣することは困難か、簡単か
Organization
組織
3つの要素を組織的にうまく活用しているか

VRIO分析の必要性とリソースベースド・ビュー

競争優位性を持つための戦略立案に必要なのが、自身の持つ資源と能力(経営リソース)の分析です。

VRIO分析は、同じ業界で事業を行っている企業でもそのパフォーマンスに差が出る理由を探る、リソースベースドビュー(RBV)理論を具現化したもので、市場でのポジショニングにより競争優位性を説明しようとする競争戦略と対を為す重要な考え方です。

1990年代にジェイ・バーニー教授によって提唱されたVRIO分析は、自社の持つリソースや能力を上記4つの観点から厳密に評価します。

それにもとづき、競争優位性をより強固にするための方策を打ち、また、すでに生じている自社の優位性を損なわないようにする方策を立てます。

VRIO分析の4つの要素と競争優位性の対応

ValueRarityImitabilityOrganization競争優位性
NONO劣位
YESNO均衡
YESYESNO一時的優位
YESYESYESYES持続的優位

V(Value)─価値の解析

  • 企業が所有するリソースが価値を持つかどうかを評価します
  • この価値とは、顧客がその製品やサービスを買うことで得る満足度や、企業がそのリソースを利用することで得る利益などを意味します。
  • 企業が持つ一つ一つのリソースがどのような価値をもたらすかを詳細に検証し、それらが全体として企業活動にどのように寄与しているかを把握することが重要となります。

R(Rarity)─希少性の評価

  • 企業が所有するリソースの希少性を評価します
  • 希少性とは、そのリソースを保有しているのが自社だけであるか、あるいは数社だけであるか、それとも多くの企業が保有しているのかということです。
  • 自社だけが保有する希少なリソースであれば、それは競争優位を生み出す可能性があると考えられます。
  • 該当リソースの取得が困難であることも希少性に含まれます。

I(Imitability)─模倣可能性を検討

  • 企業のリソースが他社によって模倣されやすいかどうかを検討します。
  • 具体的には、他社が同じようなリソースを開発、または取得することが容易であるか否かを評価します。

模倣困難性を有するには?

競合から模倣されない性質を有するに至る要素として代表的なものが以下の4点です。

  1. 独自の歴史的条件(経路依存性)
    • 企業が過去の特定の選択や経験によって形成された独自の能力や資源を指します
    • これらの条件は時間をかけて発展し、しばしばその企業固有のものとなります
    • 例えば、長年にわたる業界での経験や特定の市場での知識は、他の企業が簡単に模倣できない独特の資産となり得ます
  2. 因果関係の不透明性
    • 企業の成功がどのような要因によってもたらされたのかが外部からは明確に理解しにくい状況を指します。
    • 企業が持つ特定の資源や能力がどのようにして競争優位に寄与しているのか、その具体的なメカニズムが不明瞭である場合、競合他社はその成功を模倣するのが難しくなります。
    • 例えば、企業文化や内部の意思決定プロセスなど、表面上は見えにくい要素が成功の鍵を握っている場合、これらは容易にコピーできるものではありません。
  3. 社会的複雑性
    • 企業内の人間関係や組織文化など、社会的な要素が複雑に絡み合っている状況を指します。
    • これらの要素は、企業のパフォーマンスに大きく影響を及ぼすことがありますが、外部からは容易に理解や模倣ができない性質を持っています。
    • 例えば、従業員間の信頼関係、組織内の非公式なネットワーク、共有された価値観などは、時間をかけて育まれるものであり、これらが生み出すシナジーは他社が簡単に真似できるものではありません。
  4. 特許
    • 企業が開発した製品、技術、プロセスなどを保護するための法的手段です。
    • これにより、競合他社は特許された技術を直接模倣することができなくなり、企業は模倣から保護された独自の競争優位を確立できます。

O(Organization)─組織の準備と能力

  • 組織としてそのリソースを活用できる状態になっているか、また組織がリソースを最大限に活用するための能力があるかどうかを評価します。
  • リソースがなんであれ、それを組織として有効に取得し、活用できる体制が整っていなければ持続的には優位性を保てません。
  • リソースを活用するためのプロセスが組織内に構築されているか、また、管理体制や人材育成など、組織がリソースを最大限に活用するための体制が整っているかどうかを検討します。

VRIO分析のメリットと注意点

VRIO分析のメリット

  1. 競争優位性の評価: VRIO分析を通じて、企業のリソースや能力が競争優位性をもたらすかどうかを明確に評価することができます。
  2. 戦略的リソースの特定: 企業が持つリソースの中で、真に価値があり、希少性があり、模倣困難で、組織が適切に利用できるものを特定することができます。
  3. 戦略の方向性の明確化: VRIO分析を行うことで、どのリソースや能力に焦点を当て、どのようにそれを活用するかの方向性を明確にすることができます。
  4. 弱点の特定: 企業のリソースや能力の中で競争優位性を持たないもの、または競争優位性を失いつつあるものを特定し、それに対する対策を考えることができます。

VRIO分析を行う上での注意点

  1. 客観的な評価: 自社のリソースや能力を過大評価することなく、客観的に評価することが重要です。
  2. 環境の変化への対応: 経営環境や市場の変化に応じて、リソースや能力の価値や希少性が変わる可能性があるため、定期的にVRIO分析を見直すことが必要です。
  3. 模倣の難しさの評価: 他社が模倣することが難しいと考えているリソースや能力でも、技術の進化や市場の変化によって模倣される可能性があるため、常に警戒感を持つことが重要です。
  4. 組織の対応能力: リソースや能力が価値があり、希少性があり、模倣困難であっても、組織がそれを適切に活用できなければ、競争優位性を築くことはできません。組織の対応能力を高めることも重要です。

VRIO分析と他の分析手法との併用

意思決定の過程において、多角的な視点から組織の持つ資源や能力を評価するために、VRIO分析だけでなく他の分析手法との併用が推奨されます。

競争優位を獲得・維持するためには、単一の手法に頼るのではなく、市場の複雑性を捉えるための複数の分析手法を活用することが重要でしょう。以下では、SWOT分析とポーターの5力分析との組み合わせについて詳しく解説します。

SWOT分析との組み合わせ

SWOT分析とは、組織の内部環境の強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)を分析し、更に外部環境の機会(Opportunities)と脅威(Threats)を把握する手法です。一方、VRIO分析は、組織の持つ資源が持続的な競争優位に貢献するかを調査するものです。これらは互いに補完的な関係にあるため、組合わせて使用することでより詳細な組織分析が可能となります。

たとえば、VRIO分析を用いて得られた組織内の資源の競争優位性をSWOT分析と組み合わせることで、その資源が対外的な環境でどういった強みや機会をもたらし、いかなる脅威が存在するのかを把握できます。これにより、戦略立案の資源配分や組織の成長戦略の策定に有効活用することができます。

ポーターの5フォース分析との連携

ポーターの5フォース分析は、業界内の競争環境を分析するためのフレームワークで、競争者間の競争、潜在的な参入業者、取引先、顧客、代替製品の5つの要素を分析します。一方、VRIO分析は組織が持つ各資源の競争優位性を評価するフレームワークです。

これら2つのフレームワークを併用して分析することにより、外部環境の競争力と組織内部の資源や能力の競争優位性とのバランスを把握することが可能となります。

ポーターの5フォース分析で明らかにした競争環境に対して、どのような組織の資源や能力が有効で、またどの資源や能力を強化すべきかをVRIO分析を通して考えることができます。このように組み合わせて利用することで、経営戦略の策定においてより具体的で実践的な指針を得ることができるでしょう。

一時的な競争優位性の例

VRIO分析の観点から一時的な競争優位性を築いたが衰退した企業の例として、以下のような事例が挙げられます。

1. BlackBerry(ブラックベリー)

  • 価値: 初期のスマートフォン市場において、BlackBerryはその独自のキーボードとセキュリティ機能でビジネスマンからの支持を集めました。
  • 希少性: BlackBerryのプッシュメール技術やキーボードは、当時の他のスマートフォンとは異なる特徴でした。
  • 模倣の難しさ: 初期には、BlackBerryの技術やブランドは模倣が難しいとされていました。

しかし、iPhoneやAndroidの登場により、タッチスクリーン技術やアプリのエコシステムが主流となり、BlackBerryの競争優位性は失われました。組織としての対応も遅れ、市場シェアを大きく失いました。

2. Nokia(ノキア)

  • 価値: 2000年代初頭、Nokiaは世界最大の携帯電話メーカーとして知られていました。
  • 希少性: Nokiaの携帯電話はデザインやバッテリーの持ちの良さで知られていました。
  • 模倣の難しさ: Nokiaのブランドや技術は、当時の他の携帯電話メーカーとは一線を画していました。

しかし、スマートフォンの時代の到来とともに、iPhoneやAndroidに市場を奪われ、競争優位性を失いました。Nokiaはスマートフォン市場への適応が遅れ、大きな打撃を受けました。

これらの企業は、一時的に競争優位性を築いていましたが、市場の変化や新しい技術の登場、組織の対応の遅れなどにより、その優位性を失ってしまいました。VRIO分析の観点から見ると、これらの企業は「組織の対応能力」の部分で課題を抱えていたと言えるでしょう。

持続的な競争優位性の例

VRIOの観点から持続的な競争優位性を築いていると考えられる企業の例として、以下のような事例が挙げられます。

1. Apple(アップル)

  • 価値: Appleの製品はデザイン、使いやすさ、およびエコシステムで高く評価されています。
  • 希少性: AppleのiOSオペレーティングシステムやApp Storeは独自のものであり、他の企業とは異なる特徴を持っています。
  • 模倣の難しさ: Appleのブランド、エコシステム、およびハードウェアとソフトウェアの統合は、他の企業には模倣が難しいとされています。
  • 組織: Appleは製品の開発から販売までを一貫して行い、高い品質を維持しています。

2. Amazon(アマゾン)

  • 価値: Amazonは幅広い商品の取り扱いと迅速な配送で知られています。
  • 希少性: Amazon PrimeやAmazon Web Services (AWS) などの独自のサービスがあります。
  • 模倣の難しさ: Amazonの物流ネットワークやデータベース技術は高度であり、他の企業には模倣が難しいとされています。
  • 組織: Amazonは顧客中心の経営哲学を持ち、常に新しいサービスや技術の開発に取り組んでいます。

3. Google(グーグル)

  • 価値: Googleの検索エンジンは高い精度と速度で知られています。
  • 希少性: Googleの広告プラットフォームや多岐にわたるサービスがあります。
  • 模倣の難しさ: Googleの検索アルゴリズムやデータベース技術は独自のものであり、他の企業には模倣が難しいとされています。
  • 組織: Googleはイノベーションを重視し、多岐にわたる新しい技術やサービスの開発に取り組んでいます。

これらの企業は、VRIOの各要素を満たしており、持続的な競争優位性を築いていると考えられます。特に、これらの企業は「組織の対応能力」においても優れており、市場の変化や新しい技術の登場に迅速に対応しています。

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猿樂 昌之

猿樂 昌之

猿樂事務所(同 つむぐ人たち)の代表です。金融機関向け研修での補足情報や経営の知見を発信しております。よろしければSNSをフォローください。

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