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銀行の「アルムナイ(卒業生組織)」はワークするのか?
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銀行の人事のみなさまからも関心の高い「アルムナイ」について、出身行である三井住友銀行のイベントに参加した経験も踏まえてお伝えします。
参考:三井住友銀行、「SMBC アルムナイ」を設立(日本経済新聞)
アルムナイ(卒業生組織)とは
アルムナイ(卒業生組織)とは、特定の組織や学校の元メンバーが参加するネットワークやコミュニティのことです。日本国内では、特に企業の卒業生組織を指して使われます。
この組織の目的は、メンバー間の交流を促進し、相互のキャリア支援や情報交換、組織のブランド価値の向上などがあります。
著名なアルムナイ
以下は、卒業したメンバーが活躍している著名なアルムナイネットワークの例です:
- マッキンゼーマフィア(McKinsey Mafia):
- マッキンゼーは、多くの元従業員が政治、ビジネス、非営利組織などで重要な役割を果たしています。
- 例えば、シェリル・サンドバーグ(Facebookの元COO)、ジェームズ・ガーマン(モルガン・スタンレーのCEO)などがいます。
- ゴールドマン・サックス・アルムナイ(Goldman Sachs Alumni):
- ゴールドマン・サックスの元従業員も、金融業界や政府機関で高い地位に就くことが多いです。
- 例として、マリオ・ドラギ(イタリアの元首相、欧州中央銀行の元総裁)やスティーブン・ムニューシン(アメリカ合衆国の元財務長官)などが挙げられます。
- ペイパルマフィア(PayPal Mafia):
- ペイパルの元従業員は、シリコンバレーで多くの成功したスタートアップを立ち上げました。
- イーロン・マスク(テスラ、スペースXの創業者)、ピーター・ティール(ベンチャーキャピタリスト)、リード・ホフマン(LinkedInの共同創設者)などが有名です。
大学の同窓会とアルムナイ(企業の同窓会)の違い
大学の同窓会と企業のアルムナイ(企業の同窓会)の違いは、その構成メンバーと目的にあります。
大学の同窓会は主に教育機関の卒業生を対象とし、学術的な交流や校友のネットワーキングが中心です。もちろん、そこからビジネスのつながりが生まれることもありますが、それだけを主目的とはしません。
一方、企業のアルムナイは元従業員を中心に構成され、業界の知識共有、ビジネスチャンスの創出、採用活動の支援など、より実務に即した目的があります。
銀行がアルムナイをワークさせるために必要な観点
銀行がアルムナイに求めていること
これは、弊所の所見ですが、以下のようなことを求めていると考えられます。
- 卒業生をカムバック採用する
- 銀行業務に必要な基礎知識は極めて高く専門的です。中途採用から教育するよりは、過去に教育した元従業員に戻ってきてもらった方がコストパフォーマンスに優れます。
- 銀行の企業文化は「銀行の常識は世間の非常識」と揶揄されるほど独特な部分があります。そうした文化についても新卒で銀行に勤めた経験があれば予め受け入れる準備があります。したがって、カルチャーフィットがしやすいことになります。
- 参考:カムバック採用(三井住友銀行)
- 卒業生が創業したスタートアップに対して出資・融資、人材出向をする
- 銀行の出身者のうち、一定数はスタートアップを起こすことがあります。そしてそれらは、フィンテック領域であったり、管理系のプロダクトを扱うことが多いです。銀行は、そうした有望なスタートアップに対し、資金と人の面で支援することでビジネスチャンスを得たいと考えている可能性があります。
銀行がアルムナイを成功させるためには
- 強固なネットワーク:メンバー間の緊密な関係が、情報交換や相互支援を促進します。
- 継続的な関与:定期的なイベントやコミュニケーションにより、メンバーの関心を維持します。
- 価値提供:キャリア支援、教育プログラム、ネットワーキングイベントなど、メンバーにとって有益な活動を提供します。
出身行のアルムナイに参加して
- やはり優秀な方が多い
来場者の現職をみると、戦略コンサル、注目ベンチャーの創業者や経営企画など、一線で活躍している方が多くいらっしゃいました。 - アルムナイ(卒業生組織)の大義がわかりにくい
一方で、アルムナイをわざわざ組織してネットワーキングをすることについて「大義」が分かりにくいと感じました。単なるネットワーキング(交流会)であれば、他の機会でも十分です。
例えば、SMBC出身者の創業する企業だけにリード出資とハンズオンを提供するシードステージ・ベンチャーキャピタルを立ち上げることで、出身者の起業の成功確率を高める、アルムナイ組織内でのビジネスマッチングシステムを構築するといった形で、アルムナイとして本体(銀行)のバックアップを得て大きなことを成し遂げようという方向に進むことが重要だと感じました。