教育論

反転学習のメリットとデメリット

反転学習とは何か

反転学習とは、その名の通り学習のプロセスを逆転させます。

一般的な歴史や伝統の学習方法では、講義で知識を得た後に自宅で課題を行うという流れが一般的です。しかし、反転学習はそのプロセスを反転させ、自宅で先に学習を行った後、学校や教室でその理解度を深める討論や質疑応答を行うという学習形式です。

この方法の最大の利点は、学生が自分のペースで学ぶことができる点と、教師が個々の学生に合わせた指導を行うことができます。

反転学習の定義

反転学習は学習法の一つで、一般的には「Flipped Learning」または「Inverted Classroom」とも呼ばれます。具体的には、学生がまず自宅などで新しいコンテンツを学び、理解します。そして、次の段階で教室内でその知識を深めるためにディスカッションやプロジェクト形式の課題を行います。

これは、あくまでも自己学習に重きを置く形で、自分のペースで学習を進められるということが反転学習の特長です。教師の役割も、知識を一方的に伝えるものから、学生の理解を深めるためのサポート役へと変わります。

反転学習の歴史

反転学習は21世紀初頭にアメリカの教育界で注目を集め始めました。

2000年代初頭、アメリカの科学教師であるAron SamsとJonathan Bergmannが開発者とされています。彼らは授業時間内に行うべき実験や討論の時間を確保するため、授業のレクチャー部分をビデオで録画し、生徒に自宅で視聴させる手法を導入しました。

その結果、授業時間を有効活用し、より深い理解を得ることができるようになったのです。その後、この手法は全米の学校だけでなく、海外でも取り入れられるようになりました。

反転学習の進行方法

反転学習の進行方法は、まずは自己学習が基本となります。

教師から提供されるテキストや動画を自宅で一人で学んでいきます。自分のペースで進めることができ、わからない部分は何度でも確認することができます。また、自己学習の途中で疑問点が出てきた場合、次の授業で取り上げることも可能です。

授業時間はその知識を深めるための活動に使われます。
ディスカッション、グループワーク、プロジェクトなどが主な授業内容とされます。これは、知識を活用するスキルを磨くことと等しいのです。また、教師は生徒一人ひとりの理解度をチェックし、個別のサポートを提供します。

反転学習のメリット

授業内での受動的な学習スタイルから、能動的な学習スタイルへとシフトしていくのが特徴的であり、多くのメリットがあると言えるでしょう。

ここでは、その主要な3つのメリットについて解説していきます。

自己学習の推進

反転学習は、自分自身で学習内容を探求し、理解する力を強化するための手法です。

まず、授業前に教材を事前に学習することで、自分で調べたり考えたりする習慣が身に付きます。こうしたスキルは、将来的に自己学習を進めるうえで大きな強みとなります。

そして、自己学習のスキルが高まるとともに、自己満足感や達成感も増すため、モチベーションの向上に直結します。このように、反転学習は自己学習の推進に大いに寄与し、その結果として深い学びへと繋がるのです。

授業時間の有効活用

反転学習は、授業時間をより有効に活用することも可能にします。

授業前の自己学習により、学習内容に既に一定の理解を持っているため、授業中はその理解を深めるためのディスカッションや、実践的な課題に取り組むことができます。

これにより、ただ教員の話を聞くだけでなく、能動的に学習に参加することが可能になります。このような授業スタイルは、自身の考えを深め、広げ、鋭くすることにつながります。

理解度の向上

反転学習で最も重要なメリットの一つが、理解度の向上です。

自己学習による事前学習と、授業内での積極的な参加により、単に知識を記憶するだけではなく、その知識をどのように使うかを理解することが可能になります。

また、他の生徒と積極的に意見を交換したり、教員との対話を通じて疑問点を解消したりすることにより、自身の理解度が一層深まるでしょう。このことが長期的な学習効果に寄与し、知識の応用力を養うことが期待できます。

反転学習のデメリット

ここでは、反転学習のデメリットについて深く考えてみたいと思います。

自宅学習への負担増

まず最初に、反転学習の一つの課題として、自宅学習への負担増を挙げることができます。

反転学習は、自宅で予習を行い、学校では理解度を深める討論などを行うという学習スタイルです。これにより、従来の学校が中心の学習から自宅学習が重視される形に変わります。

しかし、これにより自宅での学習時間が増え、その結果、自宅での負担が増すことが予想されます。

特に、学校での教えてもらう時間よりも自習時間の方が増えるため、自分で学習計画を立てたり、学習を進めるための自己管理能力が必要となります。

また、親や保護者の負担も増えます。子どもが自宅での学習にどれほど時間を割けるのか、その監視やサポートがどこまでできるのかなど、家庭環境により影響が及ぶ可能性もあります。

モチベーションの低下

次に、モチベーションの低下も深刻な課題となります。反転学習は、学習者自身が主体となって学習していく方法です。自主性が求められるため、ただ先生から教えられるだけの受け身の学習とは違い、自発的な取り組みが求められます。

しかし、もし学習の目的意識が低かったり、具体的な目標設定が曖昧だと、学習意欲が低下し、学習効果も損なわれる可能性があります。

加えて、自宅での学習に時間を割くことができない場合、学校での授業についていけないという問題も出てきます。

デジタルデバイド問題

さらに、反転学習において忘れてはならないのが、デジタルデバイド問題です。

反転学習は、自宅でビデオ教材を視聴したり、インターネット上の資料を参考に学習することが多いです。

しかし、自宅でインターネットを使うことができない家庭、あるいは十分な環境が揃っていない家庭があると、このデジタルデバイド問題は深刻化します。

こうした問題は、経済的な問題だけでなく、地域や世代間のデジタル格差も含めた広い視点で考える必要があります。

反転学習の効果的な活用方法

実際の教育の現場で効果的に活用する方法について考えてみましょう。

授業支援ツールの利用

反転学習の活用にあたって、授業支援ツールの利用は必須です。

先生が発信する情報を受けるだけでなく、生徒自身が積極的に情報を取りにいくスタイルで授業を進めるためです。

特に、動画教材の利用が多く見られます。自宅で教科書を読むのではなく、動画を見ることで視覚的に情報を得ることができます。また、動画であれば何度でも見返すことができ、理解が深まります。

しかし、ツールの使い方に慣れていない生徒がいる場合も考えられますので、利用方法の説明や操作トレーニングなどを行うのも重要です。

自主学習のサポート

反転学習の成功のカギは、生徒自身の自主学習の能力向上にあります。授業時間を利用して質問やディスカッションを行うには、自宅学習でしっかりと事前学習をすることが必要となります。

そのため、自主学習をサポートするための教材やツールの提供、個々の学習スタイルに合わせた学習方法のアドバイスなどが必要と考えます。また、独自に学習するためには、解らない事項の解明や、躓いた場合のサポート体制の充実が必要でしょう。

デジタルデバイドの対策

反転学習を成功させるためには、全ての生徒が情報に対等にアクセスできる環境の構築が必要となります。それにより生じる問題がデジタルデバイドで、インターネット環境やデジタル機器へのアクセスの不均等です。

この問題に取り組むためには、学校側がデジタル機器の提供やインターネット環境の整備を行い、すべての生徒が等しく情報にアクセスできる環境を作ることが求められます。また、生徒や親がデジタル機器の操作方法やネットリテラシーについて学ぶ機会を提供することも必要でしょう。

反転学習と他の教育手法との比較

反転学習と、伝統的な教育やオンライン学習との違いを比較します。

それぞれの特徴を明らかにすることで、各学生に合った最適な学習形態を選択できるようになります。

伝統的な授業スタイルとの違い

伝統的な授業スタイルは、教師が黒板を使用して、生徒がその場で知識を吸収するという形で進行します。

一方、反転学習はこの授業スタイルを全く逆に捉え、生徒自身が予習することで学習を進めていきます。これにより、授業時間は深い理解のための議論や質問に割ける時間となります。この結果、生徒は自分の理解度を深めることが可能となり、また教員は生徒個々の理解度を把握しやすくなるのです。

オンライン学習との違い

オンライン学習は、生徒が自己ペースで自宅等で学ぶ形を取ります。

一方、反転学習は、オンライン学習を事前学習として組み合わせますが、本格的な学習は対面のクラスでの教師との対話を重視します。ここに反転学習の大きな特徴があります。反転学習では、自主学習と対話学習の両方を組み合わせることで、生徒一人ひとりの理解度を深めることを可能にしています。

反転学習の導入事例

反転学習は幅広く教育現場から企業研修まで、多様な場で活用されています。

日本国内の反転学習事例

反転学習の代表的な成功例として、国内ではある大学が特記されます。ここでは、授業の前に配布される動画教材の視聴を義務付け、その内容をもとに教員と学生のディスカッションを展開しています。この結果、学生は自分自身で積極的に考える機会を得て、思考力や主体性が向上しました。

別の例としては、ある中学校があります。生徒は個々で教材を学び、テストで得点を出すことよりも、共同学習の場で自分の意見を交えた討論を重視しています。この結果、生徒達のコミュニケーション能力や互いへの理解が深まりました。

海外の反転学習事例

海外の反転学習の事例としては、アメリカの一部大学が有名です。成績が伸び悩んでいた学生たちに対し、反転学習の導入が試みられました。その結果、成績不振だった学生たちの学力が飛躍的に向上しました。

また、英国のある小学校では、反転学習を導入することで子供たちの主体性を引き出すことに成功しています。各自が自分で課題を解答し、それを元にグループ討論を行うことで、一人ひとりが積極的に発言し議論する習慣が身に付いたのです。

企業研修での採用例

反転学習の手法が導入されている企業も増えています。あるIT企業では新人研修に反転学習を取り入れた事例があります。事前に動画教材で学んだ知識をもとに、グループディスカッションやプレゼンテーションを行いました。

また、大手製薬企業では、最新の医療トピックスについて、社員が自分で調べてグループ討論を行う反転学習を取り入れています。このように、反転学習は企業研修でも大いに期待できる手法となっています。

反転学習の未来と可能性

社会全体への影響

 反転学習は、教育の現場だけでなく、社会全体にも大きな影響を及ぼすでしょう。なぜなら、自己学習能力を高め、問題解決力を鍛える教育形態であるからです。知識を得るだけでなく、それを用いてどう考え、行動するかを学ぶことができます。


 また、反転学習は情報化社会にも合致しており、インターネットを活用した学習教材の利用が進んでいます。これにより、リアルタイムでの情報更新や、世界中からの情報取得が可能となり、学習の質や幅を広げることができます。

新しい学習スタイルへの挑戦

 反転学習は、受け身の学習から能動的な学習へと、教育のスタイルを変えることに挑戦しています。自分自身で情報を収集し、それを理解し、授業でより深く考える。これが反転学習の流れであり、新たな学習への挑戦なのです。


 しかしながら、この新しい形式がすべての人にとって最適な教育方法であるとは限りません。それぞれの特性や習熟度に応じた適切な教育方法を見つけ出し、それを提供することが、これからの教育界の課題となってくるでしょう。反転学習を含む、多様な教育方法が開発・提供されることにより、それぞれの学習者に適した学習形態が選べる社会を目指していきましょう。

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猿樂 昌之

猿樂 昌之

猿樂事務所(同 つむぐ人たち)の代表です。金融機関向け研修での補足情報や経営の知見を発信しております。よろしければSNSをフォローください。

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