講義ノート
精緻化見込みモデル;中心ルートと周辺ルート
精緻化見込みモデル(Elaboration Likelihood Model, ELM)は、人々が説得的コミュニケーションにどのように反応するかを理解するための心理学的理論です。
1980年代にリチャード・E・ペティとジョン・C・カシオッポによって提唱されたこのモデルは、特にマーケティングや広告分野で広く用いられています。ELMは、説得における情報処理の過程を「中心ルート」と「周辺ルート」という二つの異なる経路で説明します。
精緻化見込みモデルにおける『中心ルート』
- 高い関与と認知的努力:
中心ルートは、個人がメッセージの内容に深く関与し、論理的かつ批判的に情報を処理する経路です。このルートを通じた説得は、メッセージの質と論拠に基づいています。 - 持続的な態度変化:
中心ルートを通じて形成された態度や信念は、より強固で持続的です。これは、個人が情報を深く考え、自身の態度と一致させるためです。 - 高い関与の状況での適用:
このルートは、消費者が製品やメッセージに高い関心を持ち、十分な知識や能力を有している場合に特に効果的です。
精緻化見込みモデル『周辺ルート』
- 低い関与と認知的努力:
周辺ルートは、個人がメッセージの表面的な要素(例えば、発信者の魅力やプレゼンテーションの質)に基づいて迅速に判断する経路です。このルートでは、メッセージの深い処理よりも、簡単な手がかりや印象が重要です。 - 一時的な態度変化:
周辺ルートを通じて形成された態度や信念は、一般的には弱く、短期的です。これは、深い思考や分析が伴わないためです。 - 低い関与の状況での適用:
このルートは、消費者が製品やメッセージにそれほど関心を持たない、または情報処理の能力や動機が低い場合に効果的です。
精緻化見込みモデルELMの応用
- マーケティングと広告:
ELMは、ターゲットオーディエンスの関与度や情報処理の動機に基づいて、広告やマーケティングメッセージを設計する際に役立ちます。例えば、高関与の顧客には詳細で情報豊富なメッセージが、低関与の顧客には視覚的魅力や有名人の推薦が効果的です。 - 教育と健康コミュニケーション:
教育や健康啓発の分野でも、ELMはメッセージの設計と伝達方法を最適化するのに役立ちます。
ELMの注意点
- 複雑な意思決定の捉え方:
ELMは、説得のプロセスを二つのルートに単純化していますが、実際の意思決定はこれらのルートの組み合わせや、より複雑な要因に影響されることがあります。 - 個人差の考慮:
個人の価値観、先入観、経験なども説得のプロセスに影響を与えますが、ELMはこれらの要素を十分には考慮していません。